切迫するエクアドル・インタグ鉱山開発危機
一井リツ子
2014年9月1日

生物多様性に富む雲霧林
アンデスの裾野に位置するエクアドル・インタグ地方、この世界的にも最も豊かな生物多様性に富む雲霧林(世界の熱帯雨林の中でも2.5%、地球上の35の環境ホットスポットの2つを有する)の土地で、現在エクアドル国営鉱山開発公社ENAMI(エナミ)とチリ国営銅開発公社CODELCO(コデルコ/世界最大級の銅の企業)による鉱山開発(銅・モリブデン)が強行されようとしている。
このインタグでは1990年代に日本/JICAの委託をうけた三菱マテリアルが試掘を行い、試掘用の薬剤などを川へ垂れ流し、家畜が死に川で泳いだ子供に皮膚病などが発症したが責任は一切放棄され、混入し続けるヒ素や重金属による河川の汚染は現在も続いている。2004年からはカナダのアセンダント・コパー社(現コパー・メサ社)による反対派へのいやがらせや脅迫・暴力行為などが横行し、現在の開発計画にも住民の合意は得られていない。これまでの開発計画は、住民らの必死の抵抗などでなんとか食い止められてきた。しかし現在、開発予定地周辺では水力発電所の建設や道路設備など鉱山開発には不可欠なインフラ整備が着々と進められている。

資源と地球環境-本質的な解決は?
「エクアドルの運命は鉱物資源とともにある。鉱山開発なしに我々の社会に未来はない」「鉱山開発は社会構造を強化し、人口流出や地域社会の崩壊を抑制します。」というENAMIにはこの鉱物が枯渇したのち、世界各地で同様な事例が数多くみられる長期環境汚染や廃墟となり打ち捨てられる土地の姿は、彼らの脳裏には映らない。枯渇性資源と地球環境価値という問題、そして循環する経済や社会システムについて、目先の安易な利益から離れ、長期的な目線で本質的な解決策を探るべきではないのか。

「よく生きる権利」(エクアドル憲法)の国で
これまで2008年に施行されたエクアドル憲法やヤスニITT提案といった環境・先住民保護的政策を打ち出し進歩的な姿勢で多くの希望を抱かせていたコレア政権であったが、生活向上など金銭的な豊かさを重視し、表面的には反米姿勢を貫きつつも中国に頼る債務返済のためか、開発主義への強権的な姿勢を露わにしその独裁化への落胆は大きい。
2014年4月10日には、この開発予定地フニン村村長ハビエル・ラミレス氏が住民と企業とのもめごとにかかわったとして「反逆罪・テロリズム」として不当逮捕され、現在も4か月を過ぎ拘留中である。しかしこの日彼は現場にいなかったという証言があり、彼の弟にも逮捕状が出るなど、この逮捕が開発と無関係だとは言い難い。

鉱山開発に異議
私は偶然にも昨年の旅で、このハビエル氏に日本の三菱マテリアルが汚染した試掘地まで案内してもらった。往復9時間のうっそうとした山道をドロドロになりながら、なんとか到着できたのは彼のおかげだった。温厚な人柄の彼に、私達日本人がこの汚染や開発の原因をつくってしまったことを謝ると「でも君たちはこうやって知ろうとしてくれてるし、助けてくれる人達もいるから・・」とはにかみながら答えてくれたのが印象的だ。彼はこの自然や村を守るべく、地道に鉱山開発に異議を唱えてきた。
彼の自宅には監視カメラが取り付けられ、4人の子供の1人は「お父さんが戻るまでご飯を食べない」と食事をこばむようになっていて、家族の心理的ストレスも大きい。彼の母親であるロサリオ・ピエドラさんは息子の逮捕のみならず、以前夫までもこの開発にまつわる事件で亡くしている。度重なる開発による恐怖、引き起こされる住民間の不和など永年にわたり様々な苦痛を味わい、彼らの人権、コミュニティ、自分達の土地で穏やかに暮らしたいという当然の願いさえも鉱山開発は破壊してゆく。

鉱山業者らが強行突入
2014年5月8日には200~300人規模の警察隊に守られた鉱山業者らが強行突入し、彼の母親は地面をひきずられ腹部を棍棒で殴打され、彼の妻を含む住民らも一時逮捕されている。「開発ではなく生命を!」「我々はテロリストではなく農民だ!」という文字がフニン村の入り口に見受けられる。一時は通行が封鎖され占拠状態となり、現在でも多く警察隊がフニン村に常駐している。露天掘り採掘による影響は大きく、大規模森林伐採、基準値の100倍を超える重金属による水源地汚染、化学物質処理の不備、選鉱過程で発生する土砂など99.3%の廃棄物・汚染水貯水池の自然災害による有害物質の流出、生態系・絶滅危惧種への影響、健康被害、コミュニティの離散、治安の悪化と、、懸念事項はあとを絶たない。

草の根からの代替案
私達は諸団体と連携し実行委員会を立ち上げ、エクアドル・インタグの問題を伝える緊急集会、学習会の開催や、エクアドル政府への要請文に賛同を募り支援を仰いでいる。これまで住民の力で、度重なる鉱山開発をくいとめてきたこのインタグは、世界中で威圧的に押し付けられる開発主義への抵抗のシンボルとも言えよう。彼らが自らの暮らしから提唱するアグロフォレストリー・フェアトレードコーヒー、エコツーリヅムといった「資源採掘という発展モデルに対する草の根からの代替案」は、この世界の持続さえも危ぶまれる現在、私には決して踏みにじってはないないものに思われる。

京都府AALA連帯委員会「アジア・アフリカ・ラテンアメリカ京都版No.118」寄稿掲載より


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