エクアドル新憲法について
開発と権利のための行動センター
2008年10月12日

コレア政権の下で08年に制定されたエクアドル憲法について、「開発と権利のための行動センター」の青西靖夫さんのコメントを掲載させていただきます。

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国内での報道以外にも、エクアドル新憲法の革新的な部分をいくつか見ていきたいと思います。(少しずつ適宜追記していきたいと思います)

Buen vivir/良き生き方
前文において私たちが築いていくことを決意するとして、「良き生き方、sumak kawsay」が取り上げられています。これはvivir bien としてボリビアの新憲法案でも取り込まれている概念ですが、この前文では「良き生き方、sumak kawsayを達成するために、多様性と自然との調和に基づく市民の共存の新しい形を築き上げていく」ことが第一に掲げられています。
Buen vivirが訴えるのは、他の人や自然を省みず、それらを押しのけて「よりよい生活」を求めるのではない、調和に基づく自然そして人間の共存と考えられます。
第275条においても、開発はこの「良き生き方」の実現を保証するためと位置づけられ、「『良き生き方』は、人、コミュニティ、民族が、通文化性、多様性への尊重、自然との調和的共存に基づき、権利を享受し、責任を果たすことを必要とする」、と定められています。

水・食糧・環境への権利
第12条〜15条では「良き生き方の権利」として水、食糧、環境そして情報についての権利が記されています。
第12条では、水への人権が本源的なものであり、放棄することはできないことが定められ、第13条では食糧へのアクセスの権利を有すること、更には地域において、多様な文化的伝統に基づいて生産された食糧が望ましいことが定められています。
環境に関しては、第14条で生態的に安定した、健全な環境の中で生きる権利を確認し、環境保護、生態系、生物多様性、国の遺伝子資産総体の保全、環境破壊の予防、劣化した自然空間の回復を、公益であることを宣言しています。
更に第15条では、環境に対してクリーンな技術の利用と代替エネルギーの利用を促進、また生物・化学・核兵器の開発・生産・保持・流通・輸入・通過・保管及び利用を禁止し、核廃棄物や有毒廃棄物の領土内への持ち込みを禁止しています。加えて、健康あるいは食糧主権、生態系に影響を及ぼす恐れのある遺伝子組み換え生物も同様に禁止されています。

「自然の権利」
第71条〜第74条では「自然の権利」が規定されています。
第71条では「生命が再生産され、実現される自然、パチャママは、総体としてその存在と維持そして再生を尊重される権利を有する」と定めています。自然自体の権利を認めるという憲法は画期的なものであり、BBCは世界で最初の憲法であると報道しています。また第15条に加え、第73条でも遺伝子資産を決定的に改変しうる生物、有機・非有機資材の導入を禁止しています。
第395条から第415条にかけても「自然と環境」についての章がおかれ、ここでは環境に影響のある国家の決定に先立つ協議、環境への損害への対応などが定められています。生物多様性について、例外規定を設けつつも、「遺伝子組み換え作物のないエクアドル」を宣言するとともに、生物多様性に関連する集団的な知識に基づく生産物に対して、知的所有権他の権利の承認を禁止しています。また「土壌」に関しても、公益であり、国家の優先課題であると定めています。しかし環境の重視の一方で、第407条においては自然保護区であっても、非再生資源の開発に一定の可能性を残しています。

先住民族の権利
先住民族の権利については第56条から60条、及び先住民族の司法制度について第171条が定めています。こちらについてはまた後日検討したいと思います。

開発の制度
開発のための制度については第275条から第339条にかけて定められており、第275条では「良き生き方」の実現を保証するためと定義され、第276条では公正・民主的・生産的・連帯・持続に基づく経済システムの構築が目的の一つとして打ち出されています。それは開発の利益と生産手段の平等な分配と尊厳のある安定的な雇用の創出に基づくものとされています。

食糧主権
第281条が食糧主権について定めています。全ての人及び民族に健康的かつ文化的に適切な食糧自給の達成を保障するため、食糧主権は国家の義務であり、戦略的な目標であると定められています。
更に、中小規模生産者の促進、輸入食料への依存を避けるための政策の適用、多角化、生態的な技術また有機の促進、農民に土地、水と言った生産資源へのアクセスを可能とする分配政策の促進、農業生物多様性の保全と回復の促進、公正で連帯的な食糧の分配と流通を可能にするシステムの創出などが定められています。


開発と権利のための行動センターより


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