エクアドル鉱山開発問題
ナマケモノ倶楽部
2006?

発端:1990年代

南米赤道直下に位置するエクアドルは、多種多様な生態系の豊かさと、国内に13の文化が存在するという文化的多様性にも富んだ小さな国です。また自然の豊かさと対照的に、グローバル化、ドル化という世界規模の流れに苦しめられている国の一つでもあります。

債務返済のため、生態系の豊かさと共に豊かな地下資源を商品化しようとエクアドル政府が日本政府に鉱山調査を依頼したのが1991年。その後三菱マテリアルが鉱山開発調査をしたことを機に、世界的にも稀な雲霧林の中の小さな村“フニン村”(コタカチ郡インタグ地方)を中心に鉱山開発問題が始まりました。

開発予定地は雲霧林(うんむりん)が類まれな生態系を育み、2つのホットスポットも含まれています。この豊かな地に埋まっているのは、鉛、ヒ素などの重金属と混合された銅、モリブデンなど。モリブデンは携帯電話の材料として近年需要が高まっているのでした。

鉱山開発プロジェクトがもたらす地元への環境的、社会的影響は大きいと専門家は指摘しました。すなわち、多数の住民の都市部への移住、森林の伐採、採掘による地域の天候の変化、絶滅危惧種の動植物への影響、生態保護区への影響、基準値の100倍を超える重金属による水源地の汚染などです。それらが予想されていたにもかかわらず、情報は住民たちに公開されず、買収や汚職が横行し、ポーリング調査の段階で豊かな自然は荒廃していきました。

地元住民は、鉱山開発プロジェクトに団結して反対するために環境保全団体DECOINを1995年に結成、採掘の影響やプロジェクトに関する情報を入手し、反鉱山開発キャンペーンを展開しました。また、エクアドル国内外の環境と人権保護組織に情報を世界に発信することで、エクアドル政府へのプレッシャーをかけました。

フニン村を含むコタカチ郡知事に、1996年、アウキ・ティトゥアニャさんが初の先住民知事として当選します。アウキ氏は「鉱山開発反対」を明言し、1997年に「環境保全条例」を発布したほか、子どもから大人まで政治に参加できる「参加型民主主義」を推進、2000年には国連から「ドバイ賞」を受賞するなどその政治手腕は高く評価されています。(2000年、2004年と再選され、2006年現在3期目)

鉱山開発問題に対しても1998年にフニン住民代表らと来日し、東京、福岡など各地で三菱マテリアルやJICAの開発の是非を問いかける集会を日本のNGOの協力で展開したほか、JICAを訪問して直接鉱山開発反対の意志を伝えました。1998年、JICAは地域環境への多大な影響を明記した最終報告書をエクアドル政府に提出しました。そのほか、国際的な支援および地元住民の強力な反対運動・直接行動(1997年5月、三菱マテリアルのキャンプ焼き討ち)により、三菱マテリアルはインタグ地方における鉱山開発計画から撤退を余儀なくされました。
しかし、この時点で川は汚染され、その川の水を飲んだ牛が死亡し、キャンプ設営地の森が伐採されるなどの影響が出ています。

受難:2000年代

しかしその後も、様々な多国籍企業があの手この手を使って、インタグの地下資源を開発しようとしてきました。2000年12月には、チリの国営企業がフニン地区の銅の採掘権をエクアドル政府より買い受け、開発をしようとしました。DECOINは国際キャンペーンで世論を喚起、1999年に発足したナマケモノ倶楽部も広く反対キャンペーンへの参加をよびかけました。

2002年8月、エクアドルのエネルギー鉱山省は、インターネット上でフニン村(ゴールデン1、2)における7000ヘクタールの採掘権の競売を行いました。土地は個人・地域のものでも、その地下にある鉱物は、国のものであるという理屈です。けれども、エクアドルの憲法では、第23条ですべての国民は健全な環境に住むことが保証されており、第86条で採掘権を売る前に住民の許可を得ること(相談すること)も明記されています。コタカチ郡の「環境保全条例」でも、生活環境へ重金属をもたらす経済活動を禁止しています。

鉱山開発はエコツーリズム、コーヒー生産プロジェクトなど、地元住民がオルタナティブな生活手段として選択した事業に深刻な影響を与えます。競売行為は基本的人権の侵害にあたるとして、コタカチ郡は国を相手に訴訟を起こしました。裁判は最高裁まで争われましたが、2003年12月、陪審員票4対5でコタカチ郡の訴えは退けられました。

フニンのゴールデン1、ゴールデン2の採掘権を買い取ったのは個人だったのですが、その後、その権利が、カナダ・トロントに本社を置くアセンダント・エクスプロレーション社に転売されていることがわかりました。

アセンダント社は多額な資金を投資して地元住民の買収、法外な値段による土地の買い上げをはじめました。2003年12月には、コラソンという開発プロジェクト予定地内のコミュニティに医師を派遣し、鉱山開発に賛成する住民しか診察しない、鉱山開発のいい面だけを強調するなどの問題をひきおこします。この事態を憂慮したDECOINは、「インタグ医療支援キャンペーン」をたちあげ、コミュニティ住民を平等に無料で診察する医療体制への資金捻出を呼びかけました。ナマケモノ倶楽部でも支援要請にこたえ、「インタグ医療支援基金キャンペーン」を展開、2年間で80万近くの支援を行いました。

アセンダントエクスプロレーション社は、DECOINメンバーおよび地域発展評議会メンバー(鉱山開発プロジェクトの影響を受けるコミュニティ代表らで構成される協議組織)への殺人脅迫、いやがらせ、住民の買収、法外な値段による土地買い上げなどによるコミュニティの分断など様々な手段を講じて鉱山開発プロジェクトをすすめようとしています。

コタカチ郡および地域発展評議会は一貫して「鉱山開発反対」の姿勢を貫き、世界に情報を発信することで、鉱山開発反対への連帯を呼びかけています。


(その後の現在に至る経緯は「インタグの鉱山開発の今」を参照ください)


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