エクアドル・インバブラ県の地裁が「自然の権利」を認め、インタグの銅採掘許可取り消しを命じる画期的判決(3月29日)
リズ・キンブロー(Liz Kimbrough)
2023年3月31日

 エクアドルのインタグ渓谷の住民たちは大きな法律上の勝利を得た。地方裁判所がこの地域の世界で最も生物多様性の豊かな森林での銅の採掘を停止する判決を下したのだ。
 3月29日、インバブラ県の地方裁判所は、チリの鉱山企業コデルコ(世界最大の銅生産企業の1つ)とエクアドルのENAMI(鉱山公社)が憲法によって認められている住民の事前協議権および「自然の権利」に違反しているとして、両社の鉱山開発許可を取り消す判決を下した。

 この判決は、30年近くにわたってこの地域における鉱山開発に抵抗してきたインタグ渓谷の住民にとって大きな勝利である。住民たちによるとこれはラテンアメリカで最も長期に及ぶ鉱山開発反対運動である。
 当初から反対運動に参加してきた現地の活動家、マルシア・ラミレスさんは「こんなことが実現するのは本当に不可能だと思えました。しかし、私たちは公正なことを要求し、真実を語っていると確信していました。私たちは真実と権利のために闘い、それが今日実現したのです」と語る。
 住民側の弁護士の1人、マリオ・モンカジョさんによると、「これは数十年にわたって執拗にこの地域に侵入しようとしてきたいくつかの鉱山企業に対するインタグ住民の新たな勝利です。これでインタグでの採掘活動は、永久にとは言えないまでも、数年間は停止することになるでしょう」。

 この判決は今後のエクアドルにおける採掘産業関連の係争に大きな影響を与える可能性がある。エクアドルは2008年に世界で初めて「自然の権利」を認める新しい憲法を採択した。つまり、自然の生態系は存在し、繁栄し、進化する権利を有するということである。この憲法はまた、個人や地域コミュニティーに対して、自然の「代理人」としてそのような権利を保護する権利を認めている。
 エクアドルでは最近、ほかに2つの係争で「自然の権利」に基づく申し立てが認められており、それが環境とコミュニティーの権利を守るための法的手段として有効であることが示されている。
 今回の係争地となったジュリマグア鉱区は熱帯アンデス山脈にあり、世界で最も生物多様性が豊かなホットスポットで、植物、鳥、哺乳類、両生類の多様性においては現在までに世界で科学的に確認されている36の生物多様性ホットスポットのうち最も豊かである。
 この鉱区の中の原生林や二次林には43の川・小川の源流がある。そこにはアンデスヒキガエル、[参考:「ナショナルジオグラフィック」誌日本語版、「“絶滅”のアンデスヒキガエルを発見」2014年4月 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8895/]のような希少で絶滅の危機に瀕した種や、世界のどこにもいない両生類が生息している。
 Jambatu両生類調査保護センター(キト)のコレクション・マネージャーのアンドレア・テランバルデスさんは自然保護NGO「Re:wild」の取材に対して次のように答えている。「この判決によってアンデスヒキガエルやそのほかの世界のどこにもいない両生類にも回復と生存の十分なチャンスが確保できました」。

 本誌が取材した何人かの住民によると、約400人の軍人と警察官が、採掘予定地へのコデルコとENAMIの侵入を確保するために実力行使をした。
 この30年間、インタグの雲霧林を守る活動のリーダーとして活動してきたカルロス・ソリージャさんによると、「2014年5月に地元での抵抗運動のリーダーであるハビエル・ラミレスさんが逮捕された後、会社が雇った職員が暴力的にコミュニティの保護区域に侵入した。彼らは数カ月駐留し、基本的人権を侵害した」。
 コデルコとENAMIに対する訴訟は地域住民と、ソリージャさんを中心とする地元の環境団体DECOIN(「インタグの生態系の保護・保全」)によって提起された。原告はこの採掘プロジェクトが絶滅寸前の2種のカエルの生息地を脅かし、自然の権利を侵害すると主張した。
 2020年9月にインタグの住民は、下級審で「自然の権利」を根拠とする数少ない訴訟の1つに勝訴した。しかしこの判決は手続き上の過誤のために上級の地方控訴裁判所で覆された。
 住民たちは2021年に別の裁判を起こした。今回は「自然の権利」と合わせて、住民は鉱山開発について相談を受けていないこと、それは憲法で保証されている権利であることを立証した。第一審では住民は敗訴したが、判決を不服として控訴した。今回の判決はこの長期にわたる裁判闘争に終止符を打つものである。

 モンカジョによると、今回の判決で注目するべき点は、環境に関わる住民の協議権に関する判例が適用されたことである。ロス・セドロスでの開発に関する2021年12月の憲法裁判所の判決では、国は環境に関して地元のコミュニティーとの協議を実施しなければならず、協議は環境影響に関わる許可が与えられる前に行うべきだとしている。インタグではそれが実施されていなかった。この判例が適用されたことは先例となり、今後他の係争でもこの拘束力のある判例が適用される可能性がある。
 シモン・ボリバル・アンデス大学(キト)の教授で、大規模鉱山とその影響について研究しているウィリアム・サッチャーさんは次のように述べている。「この判決は、エクアドルが外国資本による採掘産業への投資先としては難しい問題があることを示しました。これは投資家に対して、司法機関は地域社会に有利で、地域社会の利益になるような決定を下すことができるというメッセージを送っている」。
 「自然の権利」を擁護する市民団体の連合体であるCEDENMAの弁護士であるグスタボ・レディンさんは、「この勝利はすばらしい。これは人々のため、そして自然のための判決です。すべての人にとっての勝利です」と語っている。

 しかし、誰もが祝福しているわけではない。ソリージャさんは本誌のメールでの質問に答えて、次のように述べている。「鉱山会社は100人以上の地元住民を雇用しています。この人たちは私たちがこの裁判に関係したことで自分たちの収入源が失われることに激しく怒るでしょう。採掘産業は地元地域が開発に依存するよう仕向けます。それを克服するのは容易ではありません」。
 しかしソリージャさんによると、インタグにはすでにエコツーリズムやコーヒー、カカオ栽培など、持続可能な生計を推進し、鉱業に代わるものを提供する組織が数多く存在している。
 彼はまた、「この判決が住民にとって意味することは、自分たちの地域で何が行われるかを自分たちで決める権利がより広範に保護され、尊重されるようになるということです。この憲法上の権利は、私たちの場合、それを守るためにこの28年間を費やしてきたものです」と付け加えた。

 しかし、闘争はまだ終わっていない。まず、コデルコ社が憲法裁判所に上訴する可能性がある。しかし、モンカジョによると、弁護士たちはこの裁判で両社の憲法上の権利が侵害されたとは考えられないので、控訴の結果についてはあまり心配していない。
 ソリージャさんや本紙が取材した人たちが心配しているもう一つの可能性は、別の会社が進出してくる恐れがあることだ。
 ソリージャさんによると、「避けられない現実として、企業は現れては去って行きますが、銅は残ったままです。エクアドル政府に十分な圧力をかけない限りはです。そのために私は国際的の支援を期待しています。政府が採掘権を他のもっと無遠慮な鉱山企業に売り渡すことは非常にありうることです。その時は悪夢と人権侵害が再び始まるでしょう」。
 彼はまた、「だから私たちは反対運動を強化し、私たちの地域のような生物多様性の豊かな原始林地帯で採掘がもたらす劇的な影響について、地域、国内、海外の人々、そして権力の座にいる人たちに知らせ続けなければなりません」と付け加えた。
 しかし、今は住民たちはこの記念碑的な勝利を祝い、今回の判決が鉱山企業に対してインタグ渓谷に手を出そうとすれば厄介や戦いに遭遇することになると警告していると期待している。
 「多国籍企業がインタグ地方を放棄しなければならないのは、これで6回目です。そして、これが最後であることを心から願っています」とソリージャさんは言う。

(原題:“Ecuador court upholds ‘rights of nature,’ blocks Intag Valley copper mine”https://news.mongabay.com/2023/03/ecuador-court-upholds-rights-of-nature-blocks-intag-valley-copper-mine/?fbclid=IwAR3eqRUtNYj9zVY4GJGCFlnyxXCwAjk6QIl2Vc21IXUP_FeUfidEXDu7aPw動画・写真あり)

Mongabayは米国を拠点とする非営利の自然保護・環境科学ニュースプラットフォームで、Liz KimbroughはMongabayのスタッフライターである。


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